皆様こんにちは。
岡山県倉敷市にて着付け塾を主宰しておりますコヤノミツグです。
全国で衣裳方として各流派日本舞踊会を中心に活動する傍ら、現代の衣裳(振袖、婚礼衣裳、訪問着など)の着付師としても活動しております。
また、今年からは「きつけ塾こやの」を主宰し、現場を飛び回りながら磨いた実践的な技術を、余す事なくお伝えしております。
さて、本日は、着付けの時に必ずと言っていいほど耳にする『補整』についてお伝えしたいと思います。
これまでの経験と新たな提案、2回にわけてお届けしますので、最後までお付き合いくださいませ。
補整の悩みどころ
皆様の中にはキモノを着る時の『補整』の大切さがあまりまだわからなかったり、自己流でしてはいるけれど、しっくりきていない方も多いのではないのでしょうか。
現在の補整にしっくりきている方も、補整は嫌いだからそもそもつけていない方もいらっしゃいますよね。
着付師としての私の意見を申し上げますと、
『美しい着姿を追求するなら補整は必要、しかし手軽さを優先するなら補整なしでも良い』と思っております。
補整については皆様の価値観を優先しつつ、今回は私の “補整” の考え方をお伝えさせていただきます。
補整もTPOで使い分ける
【ハレとケ】という言葉をご存知ですか?
『ハレ』とはお正月、年中行事、お祭り、節句、などの特別なこと、それに対して『ケ』とは普段、日常のことを指します。
日本の民族衣裳として受け継がれてきたキモノ、一昔前まではキモノが日常着でした。
慌ただしい毎日の中、日常着において丁寧に補整を施す方は少なかったはずです。何より、それどころではなかったはずですから。
対してハレの日には気合を入れてお支度をして特別な日を迎えます。
ヘアメイク、着付けもいつもとは違って特別に仕上げたいと思うのが自然ですよね。
私を例に挙げますと、私は毎日キモノ(野袴スタイル)で仕事をしております。
かれこれ10年以上、仕事にスーツを着ていないのですが、補整は一切入れていません。
しかし、家族の祝い事や、私が所属する全日本きもの文化研究協会の授与式など、ここぞというシーンにはしっかり補整を入れてカッコつけております笑
キモノ同様、補整もTPOで使い分けています。
キモノの着付けに補整が必要な理由
美容院や写真館などで着付けをされた経験がある方は、着付師さんから『補整用にタオルをお持ちください』と言われたことがあると思います。
私も着付けをお受けした際には体型問わずタオルを4〜5枚お持ち頂きます。
【キモノは直線裁ちの平面な布である】
着付けに入る下準備として十人十色の体型に合わせて補整をするのですが、何のための補整かと申し上げますと・・・
ズバリこれが補整を入れる理由になります。
キモノは洋服と違い、人間の身体の曲線にあわせて作られていません。そのため、着姿を美しくするためには、ある程度キモノに体の曲線を合わせる必要があります。
洋服とキモノの違い
皆様が着ている洋服を広げて見てみてください。
各パーツに裁たれた生地を縫い合わせてあるかと思いますが、身体の曲線に合わせてカーブがついた縫製になっていますよね。生地を裁断の前にパターンナーが型紙を起こし、型にそって作られるからです。
キモノは畳に広げてみると一目瞭然、ほとんどが直線裁ちの直線縫いで構成され、まるで1枚の布のように平面です。
この平面な布を身体に巻き付け、紐を使って着ると、人体はデコボコしていますよね。
首から下、胸、ウエスト、骨盤、太もも、背面も首から腰にかけて曲線を伴って腰がヘコんで、お尻が出ています。
体型は十人十色ですが100%デコボコなのが人体です。
そのデコボコな人体に、平面に仕上がったキモノをキレイに巻くとしわくちゃになるのが普通だと思います。
そのデコボコな身体をできるだけなだらかにできれば美しく布を巻くことができるのです。
そこで必要になってくるのがキモノを着るために適した『下着と補整』なのです。
適材適所に施すことでキモノをキレイに巻くための土台を作ることができるのです。
“補整” は足りない(凹んだ)箇所を補うもの
補整はただ寸胴にすればいいというわけではないのが難しく、奥深いところです。
なだらかなな土台(身体)を下着と補整を使って作るのですが、まずは和装ブラジャーを使えば胸をなだらかにすることができます。
その後で身体を正面、真横から確認して一番出っ張っている箇所に高さを合わせて、入れ過ぎに注意しながら最低限の補整を入れていきます。
ここで大切なのは『出たところを潰すのではなく、出たところの高さに合わせて足りない分だけ補整をする』ことです。
補い、整える = “補整”
補整する部分の基本はウエスト、腰、胸の3箇所です。
身体のデコボコをできる限りなくすことで、驚くほど素早くキレイにキモノを着ることができます。
さらに腰紐が身体に食い込むことを防げるので、体感として非常に楽なのです。
キモノ姿は曲線美にあり
私が補整を入れる時には『曲線美をどれだけ美しく出せるか』を一番意識しています。
足りない所に補整をする、という話しをしてきましたが闇雲に補整をして全くの均等な筒状を作ってしまうと、シワなくキレイに着れるのですが、着姿として趣がなくなってしまいます。
これが最初に申し上げた “ただ寸胴にすればいいというわけではない” というところです。
太って見えてしまったり、顔の大きさとキモノの着姿がアンバランスになることもありますので、あくまで『バランスのいい、美しい着姿』が理想なのです。
そのために補い、整えるのが “補整” です。
補整ありきのキモノ姿の美しさと着付け技術
適切な補整の上に着せられたキモノ姿はとても美しいです。
前姿の衿元から帯にかけてのカーブ、帯の位置を決める補整、帯から裾にかけて裾すぼまりなライン。
美しい着姿を仕上げるためには、適切な補整が必要不可欠なのです。
そして、ここから先はキモノの着せ方が大切になってきます。
お客様の御顔が引き立つよう、さらにTPOに合わせて衿合わせから帯の位置まで調整します。
『着付けは2センチで全てが変わる』これはキモノスタイリストの師匠からの教えで、常に意識して着付けをしています。
終わりに
いかがでしたか?
今回は、補整について私の考えを書いてみました。『補整』に関しては皆様それぞれに、様々な意見をお持ちだと思います。
実際、私の現場で『私は補整が嫌なので入れないで下さい』と言われたことも何度もあります。
着付け講師の先生の中にも、補整を入れずに美しく着る、というご指導をされる先生もいらっしゃいます。
冒頭でも申し上げた通り、これが正しい、間違っているということは無く、それぞれの価値観を尊重しつつ、キモノを楽しんでいただければと思います。
次回は【おすすめしたいキモノ下着と補整との出会い】
先日、とあるメーカーさんへお伺いして来ました。
以前から存じ上げてはいたのですが、直接製品をみて開発についてお話をお聞きするのは初めてでした。
メーカー社長の補整に関する考えをお聞きしていましたら、私のやってきた補整に対する考えと合致し、社長は女性なのですが、仕様、素材、縫製まで製品開発はご自身の身体で試行錯誤を繰り返すこだわりよう!
私も裾除けを体験させて頂きましたが、巻いてもらった瞬間に『おおっ、これいい、なるほど』と声が出てしまいました。
こちらは次回コラムにてじっくりご紹介したいと思います。
本日も最後までありがとうございました。
舞踊の着付けのご依頼、教室のお問合せは下記より承っております。
衣裳方 古谷野 貢
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